とある会社社長:
「12年前にわたしがこのビジネスアイデアを思いついたとき、我ながら”すごいアイデアを見つけたもんだ!”と思ったもんです。それなのに、ビジネスがうまくいけばいくほど、アイデアは顔を見せなくなった。私だけじゃない、会社の誰もろくなアイデアなんか持ってないんです!」
カウンセラー:
「先日、奥様が似たようなことをおっしゃってましたね。アイデアではなくてあなたのことでしたが。」

突然ですが、あなたはなぜ、ここにいらしたんでしょう?

アイデアを生み出す方法が知りたい?
企画をまとめる方法を探している?

それなら本屋にいけばビジネス書のコーナーにいくつかありますよね、クリエイティブ・シンキングとか企画書のまとめ方とか。色々と。
とりあえず、手っ取り早くなんとかアイデアや企画をひねり出したいという、ファーストフード派の方なら、本屋に走るかアマゾンで検索した方が早いのでそちらをおすすめします。
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「読んでみたけど実際にやってみようとしたら駄目だった」
なるほど。とにかく調べて、やってみようとしたのなら、ちょっと時間をとってこのページを読んでみてください。なにかの役に立つかもしれません。

さて。本を読んでみてどうでした?
本を読んでいる間、読後しばらくは「これだ!これでいけるぞ!!」という高揚感がありましたか?いい本を選びましたね!
さあ、後は職場で実践あるのみ。大丈夫、こんないい方法なら、うまくいくはずです。

それで、何か起きましたか?うまくいきました?

意地悪な質問ですね。もしそれで何かが変わったのなら、これを読んでいるはずがないですね、すみません。

でも、なぜ何も起きなかったんでしょう?本に書いてる方法には問題ないのに。ブレーンストーミングやKJ法、6 Hats(6つの帽子)やSCAMPERと、比較的広く使われている方法論がまとめられているはずです。実績もある方法なのに、なぜ?

それは、方法論とは別のところで、ビジネス上で創造力を発揮するためにはいくつもの関門が存在しているからです。
個人レベルならともかく、発想法を身につけただけではなかなか会社で何かを変えることはできません。そうした関門のくぐりぬけ方も含めて、ビジネス上で創造性を発揮する方法と環境の作り方をトレーニングするのが私達の仕事です。

そうした関門には例えば、このようなものがあります。

第1の関門:simple is not always the best(単純さがいつも正しいとは限らない)

自分がいままで知らなかった方法や視点を提供してくれる本は読んでいて自分のレベルがグンと上がったような、そんな気にしてくれますね。ビジネス書は忙しい社会人のために、わかりやすくシンプルに書いてありますから、短時間で理解できます。読み終わって、「これですべてが解決するんじゃないか」という感覚を覚えたとしたら、その本は実によく出来た本です。

・・・そして翌日、現実に打ちのめされるのはよくあることです。いや、ほとんどの場合。

ビジネス本やノウハウ本は、不特定多数の読者のために出来る限りシンプルに、わかりやすく書くべきものです。しかし、あなたが現実世界で抱えている問題はシンプルどころか、いろいろな都合やしがらみが絡み合いつつ日々状況を変える「複雑にしてユニークな」問題(のはず)です。

シンプル・ワールドで授かった啓示は、そのまま現実世界には持ち込めません。本はとっかかりの知識を伝えてはくれますが、そのままでは使える道具にはならないのです。自分の頭で考えて、自分仕様のプラス・アルファを創造するのが、本で得たノウハウを現実の問題に太刀打ちできるツールにするための最低条件です。
自分の頭で考えないで外に答えを求めてばかりいるから、何度も同じようなビジネス本に手を出してしまう人が絶えないんですよ。出版するほうは有難いですが。

第2の関門:信者と伝道師

幸か不幸か、私達は誰一人ひとりでは生きていけません。会社員ならなおさら。
小さいことでも、なにか変化を起こすためには他の人たちを巻き込まなくてはなりません。
アイデアの出し方や企画のまとめ方、クリエイティブ・シンキングやラテラル・シンキング・・・それらに限らず他のすべての新規なビジネスに役立つ手法は、それを知らない人々からすれば、新しい宗教みたいなものだといえるでしょう。

あなたひとりが信者になったとしても、変わるのはあなたの頭の中だけです。もしみんなの考え方を変えようとすれば、信者でいるだけでは不十分で、人々を説得して同志にする、伝道師の役割を果たさなければなりません。
伝道師には情熱と説得力が必要です。それに、伝道師は結果のいかんによらず、その信念と運命を共にすることになります。説得に成功すれば一目置かれるリーダーにもなれますが、失敗すれば単なる変人です。
そう、伝道師というのはリスキーな役回りなんです。そこまで踏み込める人はそうそういないでしょう。

第3の関門:重力の法則

第1と第2の関門をくぐりぬけ、首尾よく何人かを巻き込み、上司からも「じゃあ何か新しいことができないか考えてみてくれ」と言ってもらえたとしましょう。もうここまでくれば大丈夫、会社もGOサインを出してくれたんだから!・・・というのが勘違いなのはもうお分かりですね?単にスタートラインに立っただけです。
実は最大の山場、天王山はここにあります。
ここでの失敗は、あなたのキャリアにおそらく大きく影響するでしょうし、新規事業や新商品・サービス開発、新市場開拓に対する会社としての態度にも大きく影響してくるところです。
企業の中で新しいアイデアや企画を考えるときにポイントとなるのは、その企業が数多くの成功や失敗を積み重ねて形作った「その会社特有の常識」とのバランスです。会社の中の大多数の人はそれに従って仕事をしています。それはとても重みがあり、そこから抜け出すのは難しい、社員全員にとっての「母星」のようなものです。
この「常識」は、今までの成功体験や手痛い失敗からの反省を活かして、ビジネスをより良くするために作られたもので、決して害ばかりを成すものではなく、むしろビジネスを安定させるためには必須のものです。
ですが、この「常識」は、こと創造性を発揮する局面においては非常に強い重力として働き、新しいアイデアが産まれたり、それを実現させようとするのを妨げます。
もちろん、それにあっさりと負けてしまっては論外なのですが、そういう方はここに来るわけはないので置いておきましょう。

逆に、いくら素晴らしいアイデアを思いついたとしても、それがあまりに今の会社のやり方からかけ離れていれば、それを強引に実現しようとするのは勇気ある行為ではありますがおそらく誰もハッピーにはなりません。それはこの母星の重力圏から飛び出して宇宙の彼方に飛び出すようなもので、誰も見ていないところでどんなに素晴らしいことを成し遂げても意味がありません。(自分で起業するなら話は別ですが。)アイデア発想法や企画手法にどっぷり漬かった人は、宇宙の塵にならないように注意しましょう。やり過ぎは禁物です。

ではどこでバランスをとるべきなのか?
創造力を発揮しようとすれば、母星の地上で他の人たちと同じように暮らすわけにはいかず、といって飛び出しすぎれば宇宙の塵になってしまいます。

もう少し母星の奥に目を向けてみましょう。表面にはしがらみ、習慣・・・形式主義や官僚主義と見えるものもたくさんありますが、その奥には会社の魂や使命が見えてくるはずです。ちょっと前に流行ったミッション・ステートメントだとかコーポレート・ビジョンだとかのように明文化していなくてもかまいません。じっとあなたの会社を見つめて、何が魂なのか、何を使命にしているのか、母星の核となるものを導き出してください。

自分も、他の人たちも納得できる核が見つかったら、そこを固守。そこが最低限あなたと会社がつながってなくてはいけないポイントです。
でも、「その核と関係の無い形式主義や官僚主義にはチャレンジ」して母星の重力につかまって落下しないようにしましょう。母星の周りを周回する衛星のように、大事なところはつながっているけれども決して落下することのない軌道を回る、そういうイメージを常に持ち続けるのがコツです。