なぜ今、「コンサルティングスキル」がホワイトカラーの必修科目になるのか ── AIが変える仕事と、人に残る力【前編】──

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2026.10.27
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AIの急速な普及により、営業・企画・事務といった、これまでホワイトカラーが担ってきた定型業務・判断業務の多くが代替されつつある。この変化は一部の専門職にとどまらず、あらゆるビジネスパーソンに及び、「リスキリング」は社会課題として注目を増している。

しかし現状は、多くの企業・個人が「何を学べばいいか」「どう学ばせればよいか」という議論で足踏みしている。学習から実践・スキル定着までを一気通貫で実現できている事例は、まだ少ない。

今回は、日本のリスキリング関連の政策立案や民間企業のアドバイザリーに携わり、世界の先行事例を日本に橋渡ししてきたジャパン・リスキリング・イニシアチブの後藤氏をお招きし、Ballista代表取締役社長の勝村、取締役の池尻との3者対談を実施した。前編では、AIによってホワイトカラーの仕事がどう変わるのか、そして「人に残る仕事」とは何かを語り合った。

 

後藤 宗明 氏(ごとう むねあき) ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事

政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』は読者が選ぶビジネス書グランプリ部門賞受賞。2025年9月に新著『リスキリング【人材戦略編】』を上梓。

勝村 周平(かつむら しゅうへい) 株式会社Ballista 代表取締役社長 CEO

リクルート、アクセンチュア、PwC / Strategy&を経て、2023年7月よりBallistaに参画。大手企業のコンサルティングに加え、Ballista全体の戦略策定や複数事業の統括を経て2026年8月より現職。事業戦略や組織・人材、デジタル・AIなどの領域において、大手企業経営層との豊富な協業経験を持つ。

池尻 雄督(いけじり ゆうすけ) 株式会社Ballista 取締役

三井住友カード、デロイトトーマツコンサルティング、アポロを経て現職。金融・通信キャリア・自動車・航空・旅行・流通・SaaS・SIer・総合商社・化学・不動産・官公庁・自治体等、多岐に渡る業種のクライアントに対し、戦略~実装まで幅広いテーマでの支援実績を持つ。

 

「触れた人」と「触れていない人」——同じAIでも、見えている景色が違う

インタビュアー:AIの普及によって、営業・事務・システム・人事・経理といった各職種の業務の多くが代替されつつあります。経営層の方や現場で課題認識を持つ方——さまざまな方と接する中で、俯瞰したときにどう捉えていらっしゃいますか。

後藤氏:まず大前提として、AIの影響がどのように出るかに対する「温度感」が、人によって大きく違うというのが率直な実感です。2025年にエージェントを使って仕事をすることが広がってきても、大企業ではまだ社内で正式に認められていない会社が多いのが実態です。どのような業務がAIで代替できるのかという認識に、非常に大きな差があると痛感しています。私は4台のPCを使ってAIエージェントをそれぞれ別の目的で動かしています。一方で、「大変らしいですね」と人ごとのように話す大企業の方々もいらっしゃいます。企業規模や業種、立場によって、AIへの認識は決して均一ではないのです。

勝村:それは、AIが過渡期にあるがゆえの一時的な差なのでしょうか。

後藤氏:同じことを繰り返しているのだろうと感じます。2018〜19年頃、日系スタートアップの米国進出を担当していた当時も、「デジタル化は、大手ITベンダーに依頼するもの」という感覚が根強くありました。その後コロナ禍で対面が難しくなり、強制的にデジタル化へ舵を切らざるを得なくなった。

2022年にChatGPTが登場したときも、多くの人がハルシネーションの話をしました。「だからダメだ」と止まる人と、「技術は進化するのだから、補いながら発展させよう」と考える人では、その後が大きく分かれます。差を生むのは、まず触ってみるという初動です。AIに対する姿勢の違いは、本質的には昔から変わっていないと考えています。

勝村:ここ数年のAIの進化はすさまじく、数か月前にできなかったことがどんどんできるようになってきています。AIの性能や機能が著しく向上していく中、ハルシネーション等の足許の問題を飲み込みながら前に進めることができる企業体制やリーダーがいるかどうかで、優位性の差が出てくるのではないかと感じています。

後藤氏:AIを使っていない方ほど、AIが何でも完璧にやってくれると思い込んでいて、MicrosoftのCopilotに対しても、「思ったよりこの程度なのか」という反応が大企業から出ることもあります。「ハルシネーションが出るから使えない」という議論のまま、開発そのものを止めてしまう。ニュースでは知っているが、自分では触っていない。やはり以前と同じことを繰り返しているのだと強く思います。

 

意思決定が、どこにもない——AI導入を阻む構造

池尻:多くの企業では、DXやITの領域を依然として外注に依存しているという課題があります。加えて、いざAIを導入しようとしても、トップラインを伸ばすのかコストを下げるのか、その意思決定を誰が行うのか、リスクや費用を判断するCXOのような役割が不在であったり、不明確なケースが多い。重要性はみな理解しているのに、企画や初動の段階で止まってしまう。

特にAIは、「仕事を奪われる」「これまでの業務が否定される」といった評価や昇進の仕組み、社員のモチベーション、組織変革等にも関わるため、よほどトップダウンの会社でなければ、なかなか前に進まないのではないかと捉えています。

勝村:海外の企業では、ビッグテックの幹部をCAIOとして招き、CEOに直接レポートさせ、AIを全社マターとしてトップダウンで推進する企業が多いと聞きます。

一方で国内は、デジタル部長やIT戦略部長といった部長レイヤーに「AIで何ができるのか」が丸投げされ、経営マターになっていない傾向が強いと感じています。海外のカンファレンスに行かれる中で、その温度差を感じることはありますか。

後藤氏:非常にあります。かつて海外のAIサミットに出展した際、驚いたことが二つありました。一つは、展示会会場のブースを普通に見て回っているのがグローバル企業の役員クラスだということ。ある役員に「なぜご自分で来られるのですか、日本なら部下に調べさせます」と尋ねると、「最新のテクノロジーを知り生産性を高める努力ができなければ、自分がクビになる。自部門をどう運営するかを考えるうえでも、最新技術を定点観測しなければならないのだ」とおっしゃっていました。もう一つは、そのブースに米国を拠点とする世界有数の大手金融機関の方が沢山も来られていました。参加者アプリで数えてみたところ、参加費一人20万円のサミットに、同社から200人が来ており、これこそ人的資本投資だと衝撃を受けました。

当時この大手金融機関は、とあるデジタルバンキングサービスを急拡大させ、店舗をどんどんデジタルバンクへ変えていた時期でした。その原動力が、会社が費用を負担し、200人もの社員が自ら足を運んで最新のトレンドを学び、次世代のサービスに繋げていくという、この投資だったのです。もちろん結果としては将来転職する人もいるでしょうが、また新しい人が入って活躍してくれるなら、企業にとっては投資として十分に機能します。

 

ある経営者と話していて、下手をすると、これから人件費のほうがはるかに安くなる時代が来るかもしれない、という話にもなりました。

AIをフルに使うと月額が相当な額になる。「人間のほうが安いのではないか」と。これまでは人間の労働を自動化してコストを下げる話でしたが、局所的には、機能が高いぶんAIのほうが人間より高くつく。人への投資をどう意思決定するかという論点は、私が2019年に海外出展していた頃とスコープが全く変わっていないと感じます。

世界の議論は、すでに「実行」フェーズへ——Build, Buy, Borrow, Bot

勝村:そうした中で、AIを前提とした事業環境における人的資本への投資やマネジメントは、いま世界ではどう語られているのでしょうか。AI時代にもなお人に残る役割もあるように思います。

後藤氏:人事の世界では従来「Build, Buy, Borrow」の3B、つまり育てるか・採るか・外から借りるかでしたが、そこに「Bot(自動化)」が加わって4Bになった。この4つでワークフローをどう再構築するかという議論を、海外では真剣に行っています。何のスキルを人間に残し、何が人間にしかできず、何を自動化できるのか——ここはコンサルティング会社の稼ぎどころにもなっていて、もう議論の段階を超えて実行に入っています。

10月にオランダのHRテックカンファレンスへ行った際、Amazonの担当者が自社の人事業務でどれだけエージェントを活用しているかを話すセッションは、立ち見が出るほどの盛況でした。方向性は、間違いなくここにフォーカスしています。

メルカリ木村CTOのCHRO兼務が示す、「職種の統合」

池尻:事業戦略やDX戦略などの経営アジェンダの中でも重要度の高いものほど、スキル不足やリソース不足、時間の制約から外注し、日常業務の延長上の比較的取り組みが容易なものは自分たちでやるといった、重要な部分が逆になってしまっている状況がしばしば見受けられます。CHROが理想とする人材マネジメントと、事業部の現実がずれている状況をどう捉えられますか。

後藤氏:メルカリの木村CTOがCHROを兼務するというニュースを見たとき、「来た」と思いました。

海外ではリスキリングの責任者として、CHROではなくCLO(Chief Learning Officer)が置かれることがあります。CLOのミッションはチェンジマネジメントとリスキリングで、スキルの可視化をはじめ、テクノロジーの理解が求められるため、技術的なバックグラウンドを持つ人が就くことが多いです。もう一つ面白いのがCAO(Chief Automation Officer)で、こちらのミッションはROIの適正化、つまり人を減らして生産性を高めることです。これらC Suiteの動きを見て、「これはもう人事側だけではできない」と感じていました。そこへこの木村さんのニュースです。テクノロジー側から業務・人事を整理していく。「技術側がやるべきではない」という声もありますが、仕事を再構築するには、むしろテクノロジーサイドからでないとできない部分がある。日本企業も避けて通れない流れだと思います。

勝村:テクノロジー側から組織・人材を変えていくのは、グローバルでは明確な潮流ですね。「AIがあるからHR部門はいらない」と打ち出す企業もあれば、CHROがCAIO機能を兼務する動きもある。AI×人・組織の変革において、各社がさまざまなやり方を模索している段階だと感じます。

AIに残せない「掛け合わせ」こそ、人の価値

後藤氏:私は2年前から「リスキリングは学際的スキルの習得に振るべきだ」と言い続けてきましたが、当時はなかなか理解されませんでした。タスクの自動化が進めば、ホワイトカラーの仕事も統合が起きます。自動化できる部分は自動化され、人間に残るコアな部分が統合されていく。オペレーショナルで正解のある業務は間違いなく自動化されますが、正解のない業務は、名称は変わるにせよ、新たな姿になっていくのだと思います。

勝村:オペレーティブな部分の大半はAIに取られるでしょう。専門分野も、単なる知識であればAIが答えを出してくれます。一方で、専門知識と業界の商習慣、組織特有の暗黙知を「掛け合わせ」で考えること、あるいは他業界の常識を自業界に当てはめて捉えなおしてみること等は、まだAI単体ではできません。

AIが出した情報と、現場の暗黙知や空気と組み合わせて示唆を出し、理論だけでは動かない組織を動かしていくことは、人間の仕事として非常に重要だと考えています。

後藤氏:まさにそこです。今後のホワイトカラーの仕事は、複数の専門スキルを掛け合わせて、今ない解を出していくことだと考えています。よく「AIは正解を出せない、問いを立てる力が大事」と言われますが、日本人にとって大きなハンデになりうるのが、答えのないものに向かうのが苦手だという点です。正解があれば100点を目指せますが、ファーストペンギンのような立ち回りは苦手です。しかしワークフローの再構築が本気で進めば、ホワイトカラーは未解決の課題に複数のアプローチで挑まざるを得なくなります。

好例が、海外の大手製薬会社です。イノベーション創出のために学際的スキルを意識的に開発し、たとえば医療・ライティング・製品・広報のスキルを掛け合わせた「メディカルライター」という職種を作っています。本来は別々だった仕事を、一つの目的に向けて意図的に束ねているのです。

勝村:複数の専門性を掛け合わせることが大事になったとき、「どう掛け合わせるか」自体が新たなスキルとして求められます。そこはどうお考えですか。

後藤氏:これは課題ありきだと思います。とにかく、課題を見つけ、設定することがまず一番大事です。そのうえで、従来のやり方以外にどんな方法があるかを考える。その壁打ち相手を、AIが務めてくれるかもしれません。そこが新しい価値の創出につながっていくはずです。

勝村:まさにそのスキルが、コンサルティングスキルではないかと考えています。事業を俯瞰的にとらえ、前提を問い直すこと。「これが問題とされているが、本当に真っ先に取り組むべき問題なのか」を問う。AIが出したものや現場の暗黙知をどう掛け合わせて課題を解けるのか——課題解決のための問いを問い直すことが、AI時代だからこそ非常に大事だと思います。

後藤氏:ただ、誰もがそういう頭の使い方をしてきたわけではありません。上司に言われたことをそのままやる、前提を疑わない——そういう働き方をしてきた人のほうが多い。

池尻:働く環境や各々の役割設定もあって、その観点で考えることが必要だった人は、ごく一部でしたね。

後藤氏:本当に企業のごく一部でした。ところがAIがオペレーショナルなタスクを自動化していくと、人間に残る価値は、まさに御社が提供されている「コンサルティングスキルの民主化」——「コンサルティングスキル・フォー・エブリワン」のような世界観になっていくのでしょう。それがあって、そのソリューションとしてAIを動かす。それがいま見えている仕事の進め方だと思います。

では、その「コンサルティングスキル・フォー・エブリワン」を、どうすれば実現できるのか。後編では、リスキリングの具体的な方法論と、AI時代におけるコンサルティング会社の役割へと話を進める。

 

 

【ジャパン・リスキリング・イニシアチブ】

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブは、日本におけるリスキリングの定着普及を推進する組織です。デジタル、人事、社会課題解決の各分野で活躍するプロフェッショナルをアドバイザリーボードに迎え、調査研究と実装支援の両輪で活動しています。政府・地方自治体向けのリスキリング政策の提言を行い、30以上の地方自治体のリスキリング推進施策を支援してきました。企業向けには、リスキリング制度の策定から推進責任者の育成、アドバイザリーまでを一貫して提供しています。さらに、経済団体、労働組合、非営利団体、失業中の方の求職者支援等を通じて、働く一人ひとりが成長分野へ移行できる社会の実現を目指しています。

URL:https://jp-reskilling.org/

 

【株式会社Ballista】

株式会社Ballistaは「個人と企業の挑戦に寄り添い世界を変える」をMissionに、コンサルティング、フリーランス向けサービス、事業開発の3つの事業を展開するプロフェッショナルファームです。コンサルティングでは、コンサルタントの在り方を再定義し、新時代のコンサルティングとして企業や社会の課題解決を支援します。フリーランス向けサービスでは、旧来の商習慣や業界構造を打破し、プロフェッショナルが働きやすい社会に向けたサービスを展開します。事業開発では、特定領域の専門家や経験者を集め、明日の経営者を生み出すエコシステムを創ります。

URL:https://ballista.co.jp/

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