変革は、問い続けることから始まる ―サッポロビールが描く、DX推進の本質と飲料業界の未来―
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(写真左から 中川貴登・桑原敏輝氏)
デジタル化が急速に進む現代において、大手飲料メーカー内におけるDX推進は、単なる業務効率化を超えた経営変革の核心となっています。
「危機感と期待感の両方を持ちながら、問い続けることでしか前には進めない」——そう語るのは、サッポロビール株式会社(以下、サッポロ) DX企画部部長を務める桑原敏輝氏です。
Ballistaはサッポロが推進するビジネスアーキテクト研修において、学習フェーズの設計・構築に携わるとともに、講師を務めています。
今回は、桑原氏とBallista代表の中川貴登との対談を通じて、サッポロがDX推進に挑む背景・課題意識、DX企画部が担う使命と役割、そして飲料業界の未来像と、Ballistaとの連携で生まれた変化についてお話を伺いました。
桑原 敏輝 氏(くわはら としてる)
サッポロビール株式会社 DX企画部 部長
1998年にサッポロビール株式会社へ入社。営業企画を経て、ビール類のブランドマーケティングに従事。2022年より社内DX人財育成プログラムに参画し、2023年からは、データ基盤整備、人財育成、推進体制の構築・運営を担い、グループ全体のDX推進に取り組んでいる。
中川 貴登(なかがわ たかと)
株式会社Ballista 代表取締役社長
防衛大学校 航空宇宙工学科卒業。デロイトトーマツコンサルティングやエクサウィザーズなどを経て現職。これまで新規事業開発、組織改革、マーケティングの3つの軸で、多数の支援実績や実行経験を有する。直近では、組織変革の戦略策定や実行、会社設立、新規事業の立上げなどのプロジェクトを担当。コンサルティングスキル、実行スキル、情熱を併せ持つ。
「危機感」と「期待感」が、DXへの原動力
インタビュアー:
サッポロさんがDX推進に本腰を入れるようになったきっかけや、背景にある課題意識を教えてください。
桑原氏:
まずDXというテーマに関しては、2022年に経営トップが「会社として本格的にDXに取り組む」という方針を打ち出したことで、私自身も強く意識するようになりました。社内でDX研修を受け、デジタル技術の進化やデータ利活用が進む社会を理解するにつれて、「このままでは取り残される」という危機感がひしひしと高まっていきました。その感覚は今も変わりません。
一方で、危機感だけではなく、期待感も同時にあります。社会の変化に適切に対応できれば、お客様をより深く理解し、お客様の期待に応える商品・サービス開発を通じて満足度を高めることができる。その可能性を感じているからこそ、DXに向き合い続けています。
中川:
危機感と期待感の両方を持ちながら動いているというのは、非常に本質的な姿勢だと思います。DXの文脈で「なぜやるのか」を問い続けられている企業は、実はそれほど多くない。変革の入口で止まっている会社と、着実に前に進んでいる会社の差は、まさにそこにあると感じています。
DX企画部の使命——「環境整備」から「事業への関与・変革への伴走」へ
インタビュアー:
DX企画部はどのような使命・役割を持った組織ですか?設立の背景とともに教えてください。
桑原氏:
設立の前段として、2018年にRPAを活用した大規模なBPR(業務プロセス改革)が始まりました。徹底的な業務効率化を進めるものでしたが、コロナ禍もあって一部は不完全燃焼に終わりました。ただ、一定の効率化が実現されたことを踏まえ、次のフェーズとしてDX推進の体制整備が行われ、2023年に現在のDX企画部が設立されました。
私たちの主な役割は、グループ全体のDX推進に向けたDX人財育成・IT基盤整備・推進体制構築といった「環境整備」です。各事業会社のDX部門がその環境を活用して具体的なアクションを進めるという役割分担をしています。
ただ、2026年7月からの組織変更で、会社が純粋持株会社から事業持株会社に移行したことに合わせて、国内酒類事業における具体的なDX推進についても積極的に関与するようになっています。環境を整えるだけでなく、事業の成長に直接コミットする役割へと進化している段階です。

グローバル競争を見据えた、DXの将来像——変化を捉え、挑戦し続ける会社へ
インタビュアー:
大手飲料メーカーとして、5〜10年後にどのような姿を目指していますか?
桑原氏:
私たちはDXの方針として「お客様接点の拡大」「既存・新規ビジネスの拡大」「働き方の変革」の3つを掲げています。特に飲料やアルコールは嗜好品であるため、お客様のニーズや、その背景にあるライフスタイルの変化を深く理解することが不可欠です。その精度とスピードを高めるためには、デジタル技術の活用は必須です。
また、グローバルの視点で見ると、北米やヨーロッパの競合はデジタル技術を非常に積極的に活用しています。当社もグローバルでの成長戦略を掲げている以上、国内だけを見ていては遅れをとる。グローバルで戦うためのデジタル基盤を今のうちに作っていかなければならないという意識は強くあります。
また、変革を実装するためには、担当者一人だけでなく、上司・経営陣・サポートスタッフも含めた会社全体が動かなければなりません。だからこそ、変化に挑戦し、変化を楽しめる企業文化の醸成が、私たちが推進するDXの根底にあるテーマだと考えています。
テクノロジーが変える、飲料体験の未来——デジタルとアナログの役割と境界線
インタビュアー:
食体験・飲料体験の未来について、桑原様はどのように描いていますか?
桑原氏:
商品の開発からアフターフォローまで、飲料体験のあらゆる場面でデータやデジタル技術の活用機会があります。提供する商品・サービスだけでなく、それを受容する空間や時間をより豊かにするためのテクノロジー活用も広がっていくでしょう。
例えば将来AIを通じてお客様の生活シーンに合わせた飲料の提案ができるようになるとすれば、自分たちだけでその機能を抱え込むべきか、外部のパートナーと協業すべきかという問いも出てきます。お客様視点で考えたとき、「このシーンはこっちに聞いて、別のシーンは別のサービスで」という体験は不便です。お客様一人ひとりとの接点を長く、深くするために、アナログとデジタルの双方を効果的に組み合わせていくことが重要だと考えています。
中川:
「お客様との接点を長く、深く」という発想は、非常に本質的だと思います。テクノロジーをどう使うかよりも、テクノロジーで何を実現したいかを先に問うことで、デジタルとアナログの役割が自然と見えてくる。その順序で考えられている企業は強いと感じます。
Ballistaとの連携が生んだ変化——「気づきのきっかけ」としての伴走
インタビュアー:
Ballistaはサッポロさんが推進するビジネスアーキテクト研修において、学習フェーズの設計・構築に携わるとともに、講師を務めています。
Ballistaとの連携を通じて、DX推進の現場でどのような変化がありましたか?また、コンサルティングファームに期待することと、Ballistaに感じている固有の価値があれば教えてください。
桑原氏:
当社では2022年からDX人財育成に取り組んでおり、毎年研修の振り返りと改善を行っています。課題として感じていたのが、学んだことがなかなか実践に結びつかないということでした。今回Ballistaさんと一緒に進めているプログラムの特徴は、「研修」と名がついていながら、むしろ実務の課題を集中的に考える場になっているという点です。
プログラムの成否を決める大きな要素は、受講者が取り組むテーマを会社課題のレベルまで引き上げられるかどうかです。そのためには受講者の視野を広げ、経営側の視点で企画を深めていく力が必要です。Ballistaさんにはそのための視点・スキル・経験があり、受講者と真摯にコミュニケーションをとってくれると確信しています。
私がコンサルタントの皆さんに期待するのは、成果物よりもコミュニケーションの質です。「こういう可能性があるのでは」という気づきを与え、変わるきっかけを作り続けてくれる存在。Ballistaさんはまさにそこに注力してくれていると感じています。
中川:
桑原さんのおっしゃる通り、変革を根付かせるためには、外からの押し付けではなく、現場の方々が自分で「変えよう」と思う瞬間を作り続けることが大切です。私たちが目指しているのも、クライアントが自走できる組織になること。サッポロさんとのプロジェクトはそういった意味でも、非常に手応えを感じています。

今後への期待——変革マインドが根づく組織へ。ともに向き合い歩んでいく
インタビュアー:
今後Ballistaに対して期待していることを教えてください。
桑原氏:
私たちが目指しているのは、組織文化を変えていくことであり、結果として新しいビジネスモデルを生み出していくことです。変革マインド、挑戦を楽しめる企業文化——そこに向けて、Ballistaのコンセプトや姿勢はやりたいことと非常に近いと感じています。
現場の方々が「一人では難しいけれど、一緒にやっているからできる」と思える体験を作り続けてほしい。今取り組んでいることが、一人ひとりの成功体験として積み上がっていくように、これからも伴走してもらえると嬉しいです。
中川:
「挑戦を楽しめる文化を作りたい」というビジョンは、Ballistaが大切にしていることと完全に重なります。DXは手段であって目的ではない。その先にある「誰のために、何のために変わるのか」という問いを一緒に持ち続けることが、本当の伴走だと考えています。サッポロの変革に、これからも真剣に向き合っていきたいと思います。
経営と現場の間で——DX推進が直面する構造的な難しさ
インタビュアー:
DXを推進していく中で、これまでにぶつかってきた壁はありましたか?
桑原氏:
壁ばかりですね(笑)。データが整っていない中、どうしても目に見える成果を求められるので、理解を得るのにも、小さな成果を出すまでにも時間がかかる。それがずっと続いています。
一番難しいと感じるのは、経営ビジョンとDXの取り組みをどう紐づけるかです。最終的なゴールへのつながり方は理解してもらいやすいのですが、「そのためにデータ基盤の整備が必要で、人財育成が必要で、継続的な投資が必要で……」という手前の積み上げと、経営目標との距離感を埋めきれないことが一番の課題でした。
現場との目線合わせも難しい。現場は日々の業務で手いっぱいで、AIで変革できる可能性に気づく時間が取れない。業務効率化の先にある変革のイメージをどう伝えるか、今も試行錯誤しています。
中川:
経営と現場の「翻訳」の難しさは多くの企業で共通しています。そのギャップを埋める言語化の支援も、私たちの役割の一つだと感じています。
同じ悩みを抱えるDX推進担当者へ——「立ち止まる時間」が最短距離になる
インタビュアー:
同じような壁に直面している他社のDX推進担当者に向けて、アドバイスやメッセージがあれば教えてください。
桑原氏:
私は、会話が噛み合わない時は、基本的にこちら側に責任があると考えるようにしています。経営者はリソースをどう成長に回すか、株主にどう説明するかを常に考えている。そこを理解しないまま実行側の論理だけをぶつけても響きません。まず経営者の視点で話せるようになることが大前提だと、自分自身の反省も込めて感じています。
現場との対話も同じです。「まず効率化してから変革を」という現場のステップを頭ごなしに否定せず、一度立ち止まってあるべき姿を描く時間をあえて作ることが、長期的には最短距離になると信じています。強引なトップダウンでは持続しない。現場が主体的に「変えたい」と思える状態を作ることが変革の本質です。
中川:
「よくしようと思っていない人はいない、でもできない理由がある」——その言葉が変革支援の本質を突いていると感じます。私たちもできない理由に寄り添いながら、きっかけを作り続ける存在でありたいと思っています。

【サッポロビール株式会社】
1876年の創業以来、酒類、食品飲料、外食の分野において、個性かがやくブランドを育成・強化。「サッポロ生ビール黒ラベル」「ヱビスビール」をはじめとする事業基盤を持ち、北米を中心に約60カ国でグローバル展開を進めるなど、日本屈指の酒類メーカーとして市場を牽引している。
同社はグループ経営計画において、「シンプルでコンパクトな企業構造の確立」を基本方針の一つに掲げ、その具体的施策としてBPR・DXを推進している。変化の激しい事業環境に即応できる組織への変革を目指し、グループDX方針のもとでデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させている。
URL: https://www.sapporobreweries.com/
【株式会社Ballista】
株式会社Ballistaは「個人と企業の挑戦に寄り添い世界を変える」をMissionに、コンサルティング、フリーランス向けサービス、事業開発の3つの事業を展開するプロフェッショナルファームです。
コンサルティングでは、コンサルタントの在り方を再定義し、新時代のコンサルティングとして企業や社会の課題解決を支援します。フリーランス向けサービスでは、旧来の商習慣や業界構造を打破し、プロフェッショナルが働きやすい社会に向けたサービスを展開します。事業開発では、特定領域の専門家や経験者を集め、明日の経営者を生み出すエコシステムを創ります。