なぜ今、「コンサルティングスキル」がホワイトカラーの必修科目になるのか ── リスキリングの旗手が語る、AI時代の生き残り条件【後編】──

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2026.11.05
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前編では、AIによるホワイトカラーの仕事の変化や、「問いを立てる力」や「情報を掛け合わせる力」といったコンサルティングスキルが全ての職種に求められるようになるという内容を語り合った。

後編では、それをどうリスキリングするのか、その具体的な方法論と、コンサルティング会社が果たす役割、そしてAI時代を生きる人々へのメッセージへと話を進める。

 

後藤 宗明 氏(ごとう むねあき) ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事

政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。著書『自分のスキルをアップデートし続ける「リスキリング」』は読者が選ぶビジネス書グランプリ部門賞受賞。2025年9月に新著『リスキリング【人材戦略編】』を上梓。

勝村 周平(かつむら しゅうへい) 株式会社Ballista 代表取締役社長 CEO

リクルート、アクセンチュア、PwC / Strategy&を経て、2023年7月よりBallistaに参画。大手企業のコンサルティングに加え、Ballista全体の戦略策定や複数事業の統括を経て2026年8月より現職。事業戦略や組織・人材、デジタル・AIなどの領域において、大手企業経営層との豊富な協業経験を持つ。

池尻 雄督(いけじり ゆうすけ) 株式会社Ballista 取締役

三井住友カード、デロイトトーマツコンサルティング、アポロを経て現職。金融・通信キャリア・自動車・航空・旅行・流通・SaaS・SIer・総合商社・化学・不動産・官公庁・自治体等、多岐にわたる業種のクライアントに対し、戦略~実装まで幅広いテーマでの支援実績を持つ。

 

リスキリングの起点は、「追い込まれること」

勝村:「コンサルティングスキル・フォー・エブリワン」へのリスキリングは、非常に難しいと感じています。多くの日本企業は縦型・サイロ型で、上から言われたことを忠実にやることが求められてきました。これまでとは異なるスキルを、どうすれば日本人がリスキルできるのでしょうか。

 

後藤氏:計画的に再現できるかは分かりませんが、経験上思うのは、「追い込まれること」が必要なのではないかということです。コンサルティング的なスキルは、単に研修を受けたからといって一朝一夕で身につくスキルではありません。

壁にぶつかり、試行錯誤ができるようになって初めて、自分の前提を問い直し、アプローチを変えられるようになる。追い込まれる環境に一度身を置くことが、コンサルティングスキルを身につける入り口に立つ、ということなのだと思います。

結局は「気合と根性が大事」というところに戻ってきてしまうのですが、ただし「気合と根性バージョン2」です。これまでのものとは明確に違うもので、その中身はこれからお話しするマインドセットにあります。

 

 

人に残る力——マインドセット、エージェンシー、ジャッジメント

後藤氏:私のスキルの師匠は、働くために必要な三つのセットとして「マインドセット・スキルセット・ツールセット」を挙げています。エージェンティックAIは、このうちスキルセットとツールセットの部分を多分に代替していく。だからこそ人間に大事なのはマインドセットの部分です。どれだけAIが便利でも、使う人は使いますし、使わない人は使わない。生産性が5倍になると言っても、「今の業務には必要ない」と言う人がいるのが今の社会です。

マインドセットに関しては、いま海外で「エージェンシー」という言葉が非常によく使われています。これは「代理店」を指しているのではなく、「主体性・主体的な推進力」という意味で使われているものです。人間のエージェンシーをいかに育むかというテーマが、HR系の海外カンファレンスでは頻繁に語られるようになりました。

私はいま、「リスキリングの新たな目的はスキル移転だ」という話をしています。例えばプロフェッショナルである御社から事業会社の皆さんへコンサルティングスキルを移転し、社内でコンサルタントと一緒に働く人が育つ——従来はこれをスキル移転と呼んできました。しかしこれからは、人間が持つ頭脳のスキルをAIエージェントへ、手作業のスキルをヒューマノイドロボットへ移転していく。人間側のリスキリングは、それらをいかに動かすかにフォーカスが移っていく。

 

勝村:人間に必要なのがエージェンシーだ、というのは私も強く共感します。イノベーションとの相関が最も強い要因はアイデアの量や行動量だと言われています。机の前で考えるだけでなく、いかに動いてトライ&エラーを繰り返しながら「多産多死」を重ねられるか。

十数年前から言われてきた「グリット(やり抜く力)」も含めて、人に求められるのだと思います。

 

後藤氏:もう一つ、海外で言われ続けているのが「ジャッジメント(判断力)」です。AIが出したものが正しいのか、顧客に出すべきか出さざるべきか——その判断力や決めるスキルも、やはり人間に残る。リスキリングは、これらのスキル移転を実現するためにこそ行うべきだと考えています。

 

池尻:ジャッジメントが大事という点に関して私も同じ考えで、ホワイトカラーが今後担うことの一つに意思決定の支援を挙げています。

ただ、判断力を養うには、自身にとってはチャレンジングな裁量や役割を背負い、時には失敗もしながら前に進めていくというプロセスを経ることが必要です。

自分の経験則から判断できない、決めた後の失敗を想像できない、実体験として語れない——AIが業務に急速に染み出すことにより、そういう人がこれから増えてしまうのではないかと感じています。

 

後藤氏:顧客に怒られた、提案の満足度が低かった、といったネガティブな経験は、情報として非常に重要です。

大企業はこれからエージェント前提の働き方へアップデートする時期ですが、並行して、「新人の能力開発にどれだけ体力をかけられるか」が重要だと考えています。

米国のコンサルティング会社ではジュニアスタッフを雇わず即戦力を採り続ける動きもあり、それも一つの経営判断です。しかし新卒採用で「同じ釜の飯を食う」文化を築いてきた日本で、ジュニア採用をばっさりやめることが本当に良いのか。強い会社ほど、経験の浅い人材を計画的に幹部候補として育て続けるのではないかと思います。

 

勝村:従来のコンサルティング会社は、ピラミッド型の組織構造です。顧客にとっての価値の源泉はシニアメンバーですが、人月ビジネスである以上、収益の源泉はジュニアメンバーであるという構造です。リサーチや資料作成などジュニアメンバーが担ってきた仕事の価値が薄れる中で、この構造が崩れ始めてきています。次世代への投資として、今後もジュニアメンバーは採り続けるでしょうが、ピラミッド型から下の階層が薄いひし形のような組織構造への変化が起きてくるのではないでしょうか。

 

後藤氏:以前のHRイベントで、これからは「スキルの習得速度」が重要だと話す方がいました。速い人は新人でも育てがいがある、いわゆるFast Learnerで、採用の判断軸になりうる。逆に遅いと、現場に投入してクライアントから出入り禁止に、という事態にもなりかねない。昔のようなジュニアメンバーを大量に常駐させることで収益を上げられるのか——それは企業の戦略の影響ももちろんありますが、コンサルタントがどれだけ迅速にスキルを習得できるかにもかかってくると感じています。

コンサルティング会社の未来——「多様化」していく提供価値

インタビュアー:リスキリングが進んだ先、コンサルティング会社の役割はどう変わっていくのでしょうか。後藤さんはコンサルティングファームで採用戦略に携わったご経験もあります。外から見て、コンサルティングファームの未来はどうなるとお考えですか。

 

後藤氏:どういう顧客を対象とするかでモデルが変わります。人を多く抱えるコンサル会社もあれば、極端に少なくする会社もある。

音楽をダウンロードで聴く人もいれば、レコードを買う人もいる。自動運転タクシーがいい人もいれば、やはり人と話したい人もいる。AIの世界は、好みの多様化が非常に大きい。コンサルティングも、どの立ち位置でポジショニングするかによって、業態も提供価値も大きく変わっていくと思います。

 

池尻:AIで自動化されていく業務は、業界・職種ごとに一定見えてきています。ただ、完全に自動化を推し進めることが、その先にいる顧客にとっての正解とは限らない。あえて残す「人間らしさ」をきちんと理解・表現することが、コンサルティングに限らず、クライアントワークをするうえでは重要であり、差別化にもつながると思います。

 

後藤氏:概念的な話ですが、学際的スキルによってホワイトカラーの仕事が集約されていくと、活躍の舞台も広がります。統合された新たな労働の姿もあれば、机に向かわない「デスクレスワーカー」——教師や医師も含む、日本のエッセンシャルワークに近い現場もある。実はここは、生産性向上の余地がまだ大きい領域です。きちんとリスキリングしてテクノロジーやAIを活用すれば、活躍の余地は広いのです。

工場や配送センターを持つ会社とオフィス勤務の会社では、提供価値も変わる。デジタル化を前提とした顧客の未来に対して、コンサルティングの提供価値も分かれていくのだろうと思います。

AI時代を生きる人へ——「成長領域」へリスキリングせよ

インタビュアー:「リスキリングが重要だと思うが、どうすればいいか分からない」という方も多いと思います。ファーストステップとして、何から取り組めばよいでしょうか。

 

後藤氏:私が常々言っているのは、「リスキリングするなら成長領域へ行きましょう」ということです。成長領域は求人も増え、人が足りないので給与も上がる。せっかくリスキリングするなら、給与が上がるほうがいい。グリーン、宇宙、ロンジェビティ(健康寿命の延伸等)、そして良い商品・サービスを海外へ高く売ること。介護・ケアの分野も、少子高齢化の日本ではこれから大きくなり、それらの領域にもAIやデジタルは必ず入ります。

経営者には、こうした成長分野へ事業をシフトし、その分野に向けて従業員をリスキリングすることが求められます。個人にとっても企業にとっても、成長分野へリスキリングしていくことが、幸せなのではないかと考えています。

 

【ジャパン・リスキリング・イニシアチブ】

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブは、日本におけるリスキリングの定着普及を推進する組織です。デジタル、人事、社会課題解決の各分野で活躍するプロフェッショナルをアドバイザリーボードに迎え、調査研究と実装支援の両輪で活動しています。政府・地方自治体向けのリスキリング政策の提言を行い、30以上の地方自治体のリスキリング推進施策を支援してきました。企業向けには、リスキリング制度の策定から推進責任者の育成、アドバイザリーまでを一貫して提供しています。さらに、経済団体、労働組合、非営利団体、失業中の方の求職者支援等を通じて、働く一人ひとりが成長分野へ移行できる社会の実現を目指しています。

URL:https://jp-reskilling.org/

 

【株式会社Ballista】

株式会社Ballistaは「個人と企業の挑戦に寄り添い世界を変える」をMissionに、コンサルティング、フリーランス向けサービス、事業開発の3つの事業を展開するプロフェッショナルファームです。コンサルティングでは、コンサルタントの在り方を再定義し、新時代のコンサルティングとして企業や社会の課題解決を支援します。フリーランス向けサービスでは、旧来の商習慣や業界構造を打破し、プロフェッショナルが働きやすい社会に向けたサービスを展開します。事業開発では、特定領域の専門家や経験者を集め、明日の経営者を生み出すエコシステムを創ります。

URL:https://ballista.co.jp/

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